大きな銃声が響き、窓には銃痕が残った。
窓の端から端まで伸びるヒビを横目に、ポニーテールの女性はは飽きれて笑った。
「挨拶もなしにコレか。黒牙會のモンはこれやから。」
「褒めんなや、照れるやろ。」
面倒だと言わんばかりに返答する男に、女は一歩近づき、手を差し伸べす。
「うちはクロム・トリジェミニっちゅーもんや。爆発のクロム様ってのは、
うちの事やで。」
「誰やねん、知らんわそんなやつ。」
「そんなんええねん。ほら、うちが名乗ったんやから。自分も名乗りい。礼儀やろ。」
「はいはい、まぁ…」
テンポよく進む2人の会話だったが、ここで小さな沈黙が走った。
「どないしたんや。自分の名前忘れたんか。アホなん?」
「んなわけあるか。馬鹿にしすぎやろ。もうええわ。」
男は頭を掻いた後、ため息をついてからやっと口を開いた。
「俺はゲーネ・ジルオールや。
クロム様みたいなすんごい能力とか持ってへんから、お手柔らかになぁ。」
と銃をもてあそびながらゲーネは答えた。
「お手柔らかに、か…」
その声が聞こえた瞬間、爆撃音が部屋に響いた。
「優しくする訳ないやろ!うち、爆発大っ好きなんや!全力でいかんのは性に合わへん!」
高笑いをしながら次々と釘やネジと宙に放り、それらを爆発させてゆくクロムの視点は
標的を定めていなかった。標的を倒すことよりも、この爆発音に耳を傾け喜んでいるように見える。
「うおお!こりゃマジモンやでぇ!」
逃げ場所の無さあまり、部屋から出ていく事を得なくなったゲーネは廊下に向かって
全力で疾走した。
「待たんかい、反撃せんかい反撃!おもろないやろ!おもろないやろ!」
クロムの歓喜に満ちた叫び声と笑声が後ろから駆けてくる。
「ちょ、怖いわクロム!なんなんやもうやめえ!」
ゲーネは片足を軸に進行方向とは逆を向き、クロムに銃口を向けた。
そこにはクロムの姿はなく、なぜか”壁”が転がっていた。
さっきまで走ってきたはずの廊下が壁になっている。
そんなありえない状況に首を傾け、ゲーネは壁の裏側をのぞいてみた。
「やばい、やりすぎた。な。助けて。」
さっきまで狂ったようにはしゃいでいた女は横たわり、今度は瓦礫の下で切なそうな表情を浮かべていた。
「助けて…くれるワケないよなぁ。
敵やもん。うち、爆発は好きやけど、ほら、阿呆やねん。」
てへへ、と笑うとクロムは体の力を抜いた。
「早いわ、決着つくの。あんた何もしてないやん?ラッキーやな。はよ、とどめ。」
「ほんまな、あっけないわ。俺もめっちゃ退屈やん。逃げてしかないし。情けないわぁ。」
ゲーネはしゃがみ、
クロムの額に、銃口が押し付けられた。
「なんも、変わってへんなぁ、クロム」
「せやなぁ、何も変わってへん。なにが能力持ってへんや。なに一生懸命仮名考えとんねん。
ゲーネ・トリジェミニやろ、頭悪いからすぐに考えられへんかったんか?苗字しか。」
「うるさいわ、自爆のクロム」
「うるさいわ、頭の回転悪いゲーネにーちゃん」
額から銃口を離し、ゲーネは立ち上がった。
「助けたらへんわ。ほなな」
「どこ行きよんねん!アホー!ボケー!カスー!助けてー!紅灯商会の人、聞こえますかー!」
クロムの叫びを背に、ゲーネは笑いながら立ち去った。